ますいい建築圏 村井旬さん

ますいい建築圏に出展する作家さんへの質問です
村井旬さんが最後の作家さんとなります

質問ーますい
「過去の作品やますいいが関わらせていただいた作品で「窓」を撮影された作品が印象に残っております。作品制作において、建物の一部でもある「窓」にどういった思いをもっているのでしょうか?」

答えーむらい
僕が建築に興味を持ち始めたのは小学生の頃からです。自分がこれから住む建物が1人の建築家によってデザ インされ、大勢の職人によって作り上げらていく場面に出会ったのがきっかけです。その建物の中で自分が大き くなっていく時間流れのなかで、建物に対して自分の思考も変化していくことがとても面白いと思いました。い までも基礎、柱、屋根、壁などの家の構造よりも、例えば毎日見ているひとつの窓に対する自分の理解が年齢を 重ねるごとに変化していくことができる、建物全体への憧れを持っています。窓も様々な大きさ、形、色、素材 にそれぞれ特徴があり、備え付けられている位置や方角も千差万別あります。建物のなかでも、僕が窓を好きな 理由は、見るということを考えさせてくれるからです。 写真との出会いは、大学の授業でショートムビーを作った経験が卒業後に始めた写真へと繋がっていきます。 ショートムビーでは、自分が書いた台本をクラスメイトが演じることによってフィクションがスクリーンの上で 展開しました。いまの自分への課題は、具象を具象のままに、撮影をくり返すことからどのように抜け出せばい いのか。そしてもう1つは、私が撮影をした場所に人の気持ちを引き込むのではなく、姿形の無い第3の場所へ と思考を拡張させるためにはどうすればいいのかです。窓を眺めながら、硝子越しに見える風景と、硝子面に反 射する光、床に映る影、太陽の熱、雲の湿度、窓は毎日違う、表情を持っているので見飽きることがありませ ん。 写真ではよく風景を切り取ったり、自己の内面性を被写体に重ね合わせたりした写真のことを、鏡や窓のよう であるという例えを使うことがあります。(歴史的なキューレーターであるジョン・シャーカフスキーによって
MoMA開催された「鏡と窓」展(1978年)の影響も大きいと思います。)僕にとって写真とは、己の内的な経 験と等価値であるということです。一枚の写真は、具象を観念化し、再具象するプロセスで出来上がっていま す。自分の解釈、分析、経験などの個人的な能力を越える被写体を写真化すること自体が自分との戦いでもあ り、写真を続けているモチベーションにもなっています。 本展のタイトルでもある『建物にすむ』ということで、窓と自分の写真との関係について考え直してみるきっ かけになりました。今回見るということ、そこに写真メディアについて自分の経験を重ね合わせた結果、”映像 と空間”へと考えが広がっていったことを作品化して展示します。

むらいじゅん